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タント・ピエールが引き続き隣町の橋の建設現場で働き始めたのは、クリオの父親の紹介でした。
嵐の遭難事故で耳が聴こえなくなって以来、彼はジェスチャーを交えた口話や筆談など、独自の方法で周囲とコミュニケーションを取りながら働いていました。
初めて現場に足を踏み入れた日は、朝日が輝き、霧がまだ山間に漂っている清々しい朝でした。
現場監督がタントを職人たちに紹介すると、一人の大柄な職人が首をかしげて言いました。
「本当にこの男が役に立つのかい?耳が聴こえないんだろ」
「私は言葉は話せるんです。指示を伝えたいならば、こんなふうに」
タントは口元に微笑みを浮かべ、紙と鉛筆を取り出して書きました。
「書いて伝えてください」
その堂々とした態度に、職人たちは少し驚いたようでした。
最初は彼を疑っていた職人たちも、タントが持つ不思議なアイデアや鋭い観察力、そして誰にも負けない情熱を目の当たりにするうちに、次第に彼を信頼するようになりました。
今度の橋の建設は簡単な仕事ではありませんでした。
山と谷が入り組む険しい地形、限られた資材、そして天候の悪化…数えきれない困難がありましたが、タントは持ち前の粘り強さで挑み続けました。
ある日、崖の上で資材を運ぶ職人たちが困っている様子を見たタントは、手を振って注意を引きました。
彼が紙に書いた提案を見た職人たちは不思議そうに顔を見合わせましたが、彼の示した装置…木の滑車とロープを組み合わせた簡単な資材運搬の仕組み…を試してみることにしました。
装置が成功すると、重い荷物も軽々と運べるようになり、職人たちからは驚きと歓声が上がりました。
「すごいな、タント!お前がいなければこの仕事はもっと大変だっただろう!」
タントはノートに書かれた職人たちのメッセージを読んで、にっこり笑い答えました。
「みんなの力があったからです」
タントはただの労働者にとどまらず、次第にプロジェクトの中心的存在となっていきました。
彼は手書きの図面や指さしで職人たちに意図を伝え、効率を上げる方法を常に考えていました。
ある日、タントは大きな図面を広げ、紙に書きながら職人たちに説明しました。
「ここをこう繋げば、材料を少なくしても強度を保てます。この順番で組み立てれば、時間も短縮できます」
職人の一人が驚いた顔で言いました。
「そんなやり方、聞いたことがない!でも、なんだかうまくいきそうだ」
「やってみよう!」という声があがり、彼の提案通りに作業を進めると、驚くほどスムーズに橋が形を成していきました。
職人たちはタントの指示を完全に信じるようになり、チームはまるで一つの大きな歯車のように動きました。

完成の日は快晴でした。
山と谷を結ぶ美しい橋が、青空の下に堂々とその姿を現しました。
村人たちは集まり、歓声を上げて祝福しました。
「なんて見事な橋だ!こんな立派なものが、こんな短期間でできるなんて!」
一人の老人がタントに近づき、感謝の言葉を紙に書きました。
「お前さんのおかげで、私たちの村はこれからもっと豊かになるよ」
タントはそのメモを見て、少し照れくさそうに笑いながら紙に書きました。
「みんなの力があったからこそです。私は少し手助けをしただけですよ」
この橋はただの建造物ではありませんでした。
それは、異なる文化や背景を持つ人々が協力して築き上げた、希望と絆の象徴でした。
タントの働きぶりは瞬く間に噂となり、やがて国中に広がっていきました。
ある日、タントは村の広場で子どもたちに囲まれていました。
「タントおじさん、この橋を作るの、大変だった?」
タントは子どもの差し出したノートを見て微笑み、うなずきました。
「そうだね。でも、みんなで力を合わせれば、不可能なことなんてないんだ」
その言葉に子どもたちは目を輝かせました。
そして、この偉業はやがて国王の耳にも届き、タントの名は新たな伝説となっていったのです。
つづく
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